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万葉集の歌2題とトランプ大統領
2021/01/14(Thu)
天武天皇のみよみませる御製歌(おほみうた)
み吉野の 耳我(みみが)の嶺(みね)に 時なくぞ 雪は降りける 間無くぞ 雨は降りける その雪の 時なきが如(ごと) その雨の 間なきが如(ごと) 隈(くま)もおちず 念(おも)ひつつぞ来る その山道を
この歌は天武天皇が壬申の乱に勝利した後、当時を振り返って詠われた歌である。大意は次の如く。
み吉野の耳我の嶺に、やむ時もなく雪が降りついでいる。間断なく雨が降りつづいている。その雪がやむ時もなく降りつづいているように、その雨が絶え間もなく降りつづいているように、山道のすべての曲がり角ごとで、思い悩みながら歩いてきた、その山道を。
この念い悩んだこととは、どんなことだったろう。私は、兄の天智天皇が蘇我入鹿を殺害し、大化の改新をしてまで実現したかった理想が、崩されて行く現状を見ながら、それに目をつぶり生きて行くか、またはその理想を実現するために自分が先頭に立つべきかで、悩んでいたのではないかと思う。
理想実現のために立ち上がれば、兄、天智天皇の御子であり、自分にとっては甥っ子である弘文天皇(第39代? 672-673)に弓を引くことになる。しかし、立ち上がらなければ、皇統はいずれ息を吹き返す地方の豪族たちの私利私欲によって絶えてしまうかもしれない。「シラス」の理想は潰え「ウシハク」に取って代わられる。「どうすべきか?」と悩まれた時の歌ではないかと思っている。
大海人皇子(天武天皇)は悩んだ末に、壬申の乱を起こし、終には勝利し、次々と政策を実行して行く。
古事記と日本書紀の作製指示、神道の形態の確立、伊勢神宮の式年造営を定め、仏教を国家によって保護、律令国家を建設(ハード面 藤原京、ソフト面 飛鳥浄御原令→後に大宝律令として完成)など、まさに日本という国家の原形を作り上げたと言って良い。特に、古事記の編纂は特筆に値する。
古事(ふること)の ふみおらよめば いにしえの てぶりこととひ 聞見るごとし
本居宣長が古事記伝を、35年かけて、心血を注いで研究し完成させた時に、詠んだ歌である。その古事記を読んで行けば、上古の人々の、生活や、考え方、物の見方、語り合う事ごとが、今のわれわれが眼前で見て聞いているようにわかる、と言っているのである。
今日、縄文時代の遺跡が数々発掘され、従来の概念を覆して、新しい視点を与えてくれてはいるが、しかし、それらは、すべて遺物から推測される事柄だけである。縄文人の息吹、その生き生きした姿を知ることはできない。その姿を知るには古事記、日本書紀、万葉集に頼るしかないのである。付け加えれば、成立の分かっていない万葉集も天武天皇の発案であっても、おかしくないと思っている。
口伝で伝えられている古代の人々の姿を、後世にありありと正しく残すには、それらが、時代を経て風化して行く中で、文字として残すしかなかった。これが天武天皇の修史の着想となったのである。
小林秀雄は著書「本居宣長「の中で『・・この意識が天武天皇の修史の着想の中核をなすものであった。当時の知識人の先端を行くと言つてもいい、この先鋭な国語意識が、世上に行はれ、俗耳にも親しい、古くからの言伝へと出会ひ、これと共鳴するといふ事がなかつたなたならば、「古事記」の撰録は行なはれはしなかつた。そして、このやうな事件は、其の後、もう二度と起こりはしなかつたのである。』と言っている。
話を歌に戻す。天武天皇の悩みの根源は、すでに述べた「シラス」の原理が「ウシハク」に覆われようとしているのを座視すべきか否か、なのである。そう見てくると、私には、この歌が、今の我々が目撃している「トランプ大統領」の悩み、と直結してくるのだ。
始馭天下之天皇(ハツクニシラススメラミコト)と古事記に書かれた言葉がある。「天下を初めて治めた天皇」という意味であるが、この称号は、初代の神武天皇と、第10代の崇神天皇に与えられている。余談だが、これを持って神武天皇と崇神天皇が同一人物であるとの説が左翼学者の間で横行しているが世迷言である。「ハツクニシラス」とは、建国の理念を実行した天皇、と解されるべきである。
天照大神(あまてらすおおみかみ)は瓊瓊杵命(ににぎのみこと)=神武天皇に「豊葦原(とよあしはら)の瑞穂(みずほ)の国は、汝(いまし)の知(し)らさむ国なりとことよさしたまふ。かれ命のまにまに天降(あも)りすべし」と仰せられた。つまり「シラス」を実行して日本を治めよ、という意味だ。「シラス」を実行する事が建国の理念なのだ。
しかし、その「シラス」の統治原理は、第2代、第3代と時を経るごとに曖昧になり、第10代の崇神天皇の頃になると、地方豪族が私利私欲のために反乱を起こし、日本を「ウシハク」して治めようとする動きが出てきた。そこで、崇神天皇は大改革を行い、初代天皇の「シラス」の原理に戻したと記紀は伝えているのである。
人は欲に溺れやすい。最初に崇高な原理で建国された国家も、時を経るごとに、身に垢がつくように、次第に汚れてくる。したがって時々、禊をして、垢を洗い落としリフレッシュして元に戻してやらねばならない。
そして、それは長い歴史の中で何度でも起こる。第10代崇神天皇より数えて第32代の崇峻天皇は蘇我馬子により暗殺されてしまうのである。「シラス」が「ウシハク」に取って代わられる危機が再び起こってきた。この危機の時、聖徳太子が現れ一七条憲法を制定し、三経義疏(法華経、勝鬘経、維摩経の注釈書(義疏・注疏)を表し仏教を広め、人のあるべき道を示すが、蘇我氏の横暴は止まず、「シラス」危うい立場に陥る事になる。日本の歴史上でも、建国の理想の最大の危機と言って良いだろう。
これを止めたのが、大化の改新を起こした天智天皇なのだが、天智天皇亡き後「シラス」原理は曖昧になって、再び「ウシハク」に覆われようとしていた。それを覆し、元の「シラス」原理を打ち立て成功させたのが、弟の天武天皇だ。
そういう見地で見ると壬申の乱も、再び建国の理想に戻す為には必要な戦だった。そして、それを行なった天武天皇にも「ハツクニシラススメラミコト」の称号を与えても良いと思う。もっとも、古事記は推古天皇までで終わっているし、記紀編纂を命じた天皇だから、当然、書かれることは無い。過去の事績を伝えるのに用いる「ハツクニシラススメラミコト」なのだから。とは言え、記紀には書かれる事はなかったにしろ、後の世に生きる我々は、それを肝に銘記すべきだろう。さらに言えば、トランプ大統領もアメリカの失われようとしている建国の理想を戻し、再び実現させた大統領になる筈だから「ハツクニシラス」と呼んでも良いではないか。
舒明天皇の御歌
夕されば 小倉の山に 鳴く鹿は 今夜は鳴かず い寝(ね)にけらしも
夕がたになると、いつも小倉の山で鳴く鹿が、今夜は鳴かない、多分もう寝てしまったのだろう、という意味である。
斎藤茂吉は「いねにけらしも」の一句は「まさに古今無上の結句」「万葉集中最高峰の一つ」と評価している。
私が若い頃、影響を受けた山口悌治先生の「万葉の世界と精神」には『この御製(ぎょせい)には、惻々(そくそく)として身に迫ってくるものがある。それはこの御製を支えている名状し難い静けさである。文学的な鑑賞眼などでは、とうていとらえることのできない、その静寂の深さである。………舒明天皇をとり囲んで、ひしひしと迫ってくるのは、物音一つしない無限の静寂である。森々と深まりゆく宵闇である。………この御製全体を、胎盤の如く包んでいるものは、舒明天皇のあの「沈黙」だと思うからである。』と評している。
確かに、歌に不慣れな私にも、尋常ならざる静けさは感じられる。しかし、この時、舒明天皇のおかれていたお立場はどうであったか?。これを解さなければ山口先生が「舒明天皇の「沈黙」と書かれた意味がわからない。もう少し山口先生の解説を読んでみる。
『推古天皇の崩御後における皇位継承の紛争。蘇我蝦夷(そがのえみし)を一方の主軸とする群卿の対立抗争の間に処して「沈黙」を守り通して、密かに聖徳太子の悲願の達成を祈念せられた、あの「沈黙」の意義の深さを想わずにはいられないからである。そしてその「沈黙」の祈りの中から、大化の改新の指導者であり完成者である、天智天皇と天武天皇のご兄弟の皇子を見事に育て上げられたのである。舒明天皇に関する限り、このことはは決してわすれられてはならない。』。先に書いたが、第32代の崇峻天皇は暗殺されている。舒明天皇の周りでは陰惨な権力闘争が起こっていたのである。
皇極天皇ーーーーーーーーーーーーー舒明天皇 (第35代) | (第34代) 斉明天皇 | (第37代) | ―――――|――――- | | 天武天皇 天智天皇 (第40代) (第38代) 673~686 626~672
「ウシハク」を行おうとする者は、目的のためには、暴虐の限りを尽くしも恥じない。「シラス」を目指す者は、常にこの妨害に遭いながら、政(まつりごと)を行うのが世の常のようである。そして「ウシハク」は時間とともに増殖する。だから、時々リセットしてやらなければならない。
それは正に現代だ。アメリカで起きている、2020年11月3日〜2021年1月20日のアメリカ大統領選挙は、その最大級の出来事である。トランプ大統領はほしいままに跋扈するDSと中共の間にあって、気が熟するまで、この「沈黙」を貫かれたのであろう。だが、今、機は熟し時は来た。
アメリカ版、大化の改新だ。それには壬申の乱の様に軍事力が必要になる。グレイト リセットはバイデン側の標語だが、皮肉なことに、その軍事力によってグレイト リセットされるのは彼らになるのだ。もう少し、もう少し。
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2024/04/26 12:13
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